シェークスピアの劇的独白を愉しむ



尼寺へ行け!


Act 3, Scene 1 A room in the castle.

HAMLET
Ay, truly; for the power of beauty will sooner
transform honesty from what it is to a bawd than the
force of honesty can translate beauty into his
likeness: this was sometime a paradox, but now the
time gives it proof. I did love you once.

OPHELIA
Indeed, my lord, you made me believe so.

HAMLET
You should not have believed me ;for virtue cannot
so inoculate our old stock but we shall relish of
it: I loved you not.

OPHELIA
I was the more deceived.

HAMLET
Get thee to a nunnery: why wouldst thou be a
breeder of sinners?
I am myself indifferent honest;
but yet I could accuse me of such things that it
were better my mother had not borne me: I am very
proud, revengeful, ambitious, with more offences at
my beck than I have thoughts to put them in,
imagination to give them shape, or time to act them
in. What should such fellows as I do crawling
between earth and heaven? We are arrant knaves,
all; believe none of us. Go thy ways to a nunnery.
Where's your father?

OPHELIA
At home, my lord.

HAMLET
Let the doors be shut upon him, that he may play the
fool no where but in's own house. Farewell.

OPHELIA
O, help him, you sweet heavens!

HAMLET
If thou dost marry, I'll give thee this plague for
thy dowry: be thou as chaste as ice, as pure as
snow, thou shalt not escape calumny. Get thee to a
nunnery, go: farewell. Or, if thou wilt needs
marry, marry a fool; for wise men know well enough
what monsters you make of them. To a nunnery, go,
and quickly too. Farewell.

OPHELIA
O heavenly powers, restore him!

HAMLET
I have heard of your paintings too, well enough; God
has given you one face, and you make yourselves
another: you jig, you amble, and you lisp, and
nick-name God's creatures, and make your wantonness
your ignorance. Go to, I'll no more on't; it hath
made me mad. I say, we will have no more marriages:
those that are married already, all but one, shall
live; the rest shall keep as they are. To a
nunnery, go.

尼寺へ行け。え?罪人を生みたいのか?
俺だってかなり誠実なつもりだが、
おふくろが生んでくれなければよかったと
自分を責めることだってある。
自惚れ強く、復讐を狙う野心家で、
あまりに多くの罪を抱え込んでいる。
(中略)
お前が氷のように貞節で、雪のように純潔であろうと、
禍からは逃れられんぞ。
尼寺へ行け。さようなら。


河合祥一郎訳
ハムレット 第三幕第一場

ここでハムレットはオフィーリアに
「尼寺に行け!Get thee to a nunnery」という。

尼寺の場、とも、オフィーリアいじめの場とも言う。((^_^;;)
ところで小田島雄志さんはこのシーンから、
「自分のシェークスピアが始まった」といっている。



「お前を愛していた」といった直後、
「お前を愛していなかった」とたたみかける男は、
いったいなにを表白しているのか。
そのような疑問から、ぼくのシェークスピアははじまった。

(「小田島雄志のシェイクスピア遊学」白水社1982 Uブックス1991)

大学2年のときだそうだ。訳は坪内逍遥のものだったという。

信じてはならなかったのだ。もとの木が卑しければ、
どんな美徳を接木しようと無駄だ。卑しい花しか咲きはせぬ。
小田島雄志訳

普通は俺を信じろ、という。
そうあろうとしてそうなる。
(あるいは、そうなったと信じる)

小田島さんは言う、

この場のハムレットの言動を
オフィーリアが敵の囮であると知ったことに由来する、として
説明しきろうとする人がいる。
僕はそのような動機付けをすることは、
根本的にハムレットを誤解するものと考える。
この場のハムレットは自分で自分の気持ちをつかみきっていない。
「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。
どちらが立派な生き方か…」と
自問しながら、結局その解答を出せなかったように、
愛したか愛していなかったか、それが問題であっても、
解答はないのである。

クローディアスとポローニアスが盗聴しているのを、
Ha, ha! are you honest?

ハ、ハ〜と, ここ「で気がついた、とされてるわけだが、
(honest=正直、貞淑の二重の意味)
他での盗聴はすべて台詞になっているのに、
ここではその台詞がない以上、
「気がついていたとはいえないだろう」、と小田島雄志さん。

河合祥一郎さんの読み方としては、
これは、ハムレットは知らない、観客は知っている、ということを利用した、
劇的皮肉「ドラマチック・アイロニー」の場面、という。
「ハムレットは気づいていないにも関わらず、
立ち聞きしている連中のみならず観客をぎくりとさせる。
ひょっとして知っているのではないかという劇的効果である、と

なるほど。


なお、
松岡和子さんによれば現実に隠れていると気づかないとしても
オフィーリアが自分を"noble mind"といったとたんに
その言葉のうらに親父がいるな、と、ハムレットの心が冷えるのだ、という、
オフィーリアはポローニアスに気位を高く持てとお説教されているわけで。


なお、尼寺=売春宿説をとるAdamsやDoverの説があるが、
Jenkins他は否定。河合祥一郎さんもそれは否定している。



Hamlet (1948) Jean Simmons(1929〜)
HAMLETにインスパイアされたARTのおまけ
Visual Representations of Hamlet, 1709-1900 Alan R. Young
http://www.leoyan.com/global-language.com/ENFOLDED/YOUNG/
Pre-Raphaelite Painting and Nineteenth-Century Realism

”the visual arts in the eighteenth and nineteenth centuries
one of the most dramatic and painful episodes in Hamlet”
The Hamlet-Ophelia story was of particular interest to Rossetti and his circle
(Walter Deverell, John Everett Millais, and Arthur Hughes in the British Museum).

Dante Gabriel Rossetti. Hamlet and Ophelia, 1858.

http://www.legends.dm.net/shakespeare/hamlet.html