シェークスピアの劇的独白を愉しむ




考えなどというものは、
四分の一は知恵かもしれないが、
四分の三は臆病にすぎぬ
第4幕第4場


HAMLET
Who commands them, sir?

Captain
The nephews to old Norway, Fortinbras.

HAMLET
Goes it against the main of Poland, sir,
Or for some frontier?

Captain
Truly to speak, and with no addition,
We go to gain a little patch of ground
That hath in it no profit but the name.
To pay five ducats, five, I would not farm it;
Nor will it yield to Norway or the Pole
A ranker rate, should it be sold in fee.

HAMLET
Why, then the Polack never will defend it.

Captain
Yes, it is already garrison'd.

HAMLET
Two thousand souls and twenty thousand ducats
Will not debate the question of this straw:
This is the imposthume of much wealth and peace,
That inward breaks, and shows no cause without
Why the man dies. I humbly thank you, sir.

Captain
God be wi' you, sir.

Exit

ROSENCRANTZ
Wilt please you go, my lord?

HAMLET
I'll be with you straight go a little before.

Exeunt all except HAMLET

How all occasions do inform against me,
And spur my dull revenge! What is a man,
If his chief good and market of his time
Be but to sleep and feed? a beast, no more.
Sure, he that made us with such large discourse,
Looking before and after, gave us not
That capability and god-like reason
To fust in us unused. Now, whether it be
Bestial oblivion, or some craven scruple
Of thinking too precisely on the event,
A thought which, quarter'd, hath but one part wisdom
And ever three parts coward
, I do not know
Why yet I live to say 'This thing's to do;'
Sith I have cause and will and strength and means
To do't. Examples gross as earth exhort me:
Witness this army of such mass and charge
Led by a delicate and tender prince,
Whose spirit with divine ambition puff'd
Makes mouths at the invisible event,
Exposing what is mortal and unsure
To all that fortune, death and danger dare,
Even for an egg-shell. Rightly to be great
Is not to stir without great argument,
But greatly to find quarrel in a straw
When honour's at the stake. How stand I then,
That have a father kill'd, a mother stain'd,
Excitements of my reason and my blood,
And let all sleep? while, to my shame, I see
The imminent death of twenty thousand men,
That, for a fantasy and trick of fame,
Go to their graves like beds, fight for a plot
Whereon the numbers cannot try the cause,
Which is not tomb enough and continent
To hide the slain? O, from this time forth,
My thoughts be bloody, or be nothing worth!

Exit
Act 4, Scene 4 A plain in Denmark.




人の命と金を五万とつぎ込んだところで、
この藁しべほどの問題に決着はつくまい!
冨と平和の影にある腫れ物だ。
ただれるのは中ばかりで、外からは見えぬまま、
人は死んでいく。
(中略)

.......(以下第7独白)…

見るもの聞くもの、すべてが俺を責め、
鈍った復讐の決意に鞭をくれる。
人間とは何だ?
ただ食って寝るだけで人生を費やすとしたら?
獣(けだもの)と変わりはない。
神は我らに、前を見通し、うしろを見返す、
大きな思考力を授けたもうた

その能力と神にも劣らぬ理性を
持ち腐れにしてよいはずがない。ところが、俺は、
畜生の物忘れか、あるいはあれこれと
結果を考えすぎて臆病風に吹かれたかー
考えなどというものは、四分の一は知恵かもしれぬが、
四分の三は臆病にすぎぬ
ー何だって、俺は、
これだけやらねばならぬと言いながら、おめおめと生きているのだ。
それを行う大義も、意思も、力も、手段もあるというのに。
大地のように確固たる実例が俺を叱咤している。 見ろ、あの軍隊を。堂々たる立派なものだ。
率いるのは、まだうら若い、優しげな王子ではないか。
ところが、その心は、崇高な大志で膨れ上がり、
結果がどうなろうと気にもかけず、
儚き命も将来も、運命と死の危険に
曝(さら)そうとしているのだ、それも
卵の殻ほどの問題のために!真の偉大さとは
大義がなければ微動だにしないが、
名誉が関わるとなれば、たとえ藁しべ一本のためにも
命を懸かけて立ち上がることだ。
ところが
この俺はどうだ、父を殺され、母を汚(けが)され、

理性も血潮も沸き立つ理由がありながら、
何もかも眠らせている。恥を知れ。目の前では、
二万もの兵士が死に赴こうとしているのだ。

名声という儚い幻想を求めて、
塒(ねぐら)へ急ぐように墓場へ向かっている。
それも、大勢て戦う広さもない土地、
死者を埋める墓地にもならぬ土地のためにだ。
ああ、これからは、俺の心よ、血に飢えろ
さもなければ男ではない。
河合祥一郎訳


う〜〜む。
「俺の心よ、でしゃばるな、けだものの眠りを眠っていろ。」
…ではありませんか?
(ランボーby小林秀雄)

とても難しいところに来てしまった。
「心が崇高な大志で膨れ上がり、
結果がどうなろうと気にもかけず、
儚き命も将来も、運命と死の危険に
曝(さら)そうとしている」
「人の命と金を五万とつぎ込んだところで、
この藁しべほどの問題に決着はつくまい!」
…とわかっているのに?
to be or, not to be ……

「真の偉大さとは
大義がなければ微動だにしないが、
名誉が関わるとなれば、たとえ藁しべ一本のためにも
命を懸かけて立ち上がることだ。」
…って??
そうなのか?

このところ河合祥一郎さんの訳を中心にしていましたが
ここで、 小田島さんと野島さんのもちょっと



見るもの聞くもの、すべてがおれを責め、
にぶった復讐心に拍車をかけようとする!
人間とはいったい、なんだ。
食っては寝るだけに生涯のほとんどを費やすとしたら
人間とは何だ?
畜生と変わりがないではないか
人間に前後を見極める大きな力を授けた神は、
その能力、神にも似た理性を、使わないまま
かびさせようとしてお与えになったのではあるまい。

ところがこのおれはどうだ、畜生の物忘れか、
それとも事の成り行きをあれこれ考えすぎての
臆病なためらいか、そう、考える心というやつ、
もともと四分の一は知恵で、残りの四分の三は、
臆病に過ぎないのだ、いずれにしろおれにもわからぬ、
「これだけはやらねば」といいつつのめのめと暮らす
俺自身が。
(中略)
見ろ、あの兵士たち。あれだけの兵力と費用を。
率いる王子の痛々しいまでの若さ。
だがあの王子の胸は崇高な大望にふくらみ、
いかなる結果が待ち受けるかは眼中になく、
儚い頼りない命を運命に曝し、 死と危険に間然とと挑戦する
、それもただ

卵の殻ほどの問題のためだ、真の偉大さとは何か。
たいした理由もないのに軽挙妄動することではなく、
名誉がかかわるとあらば、たとえ藁しべ一本のためにも
死を賭して戦う理由を見出すことこそ偉大なのだ。
(中略)
ああ、いまからはこの俺の胸のうちを、情けを知らぬ
残忍な思いで満たすぞ、でなければ男のうちに入らぬ。

小田島雄志訳




「死を賭して戦う理由」
(^_^;;

たまたまであったものすべてがおれを責め、
鈍った復讐心に鞭をくれる!
人間とはいったい、なんだ。
食っては寝るだけが人生の能だとしたら?
畜生とどう違う?
前を見、後ろを見、それで物事を考えて計画する。
そんな知力をふんだんに人間に授けてくださった方は、
この能力、神のごとき理性が、
まさか使われず黴(かび)を生やすなどとは、
思ってもいらっしゃらなかったにちがいない。ああ、このざまは
畜生同然の忘却か、結果をあまりにも細心に考える、
臆病者のためらいか 細心に考えるといったところで
四つ裂きにしてみれば、知恵はわずかその一分、
後の三分は卑怯者ーいったいどうしておれは、
「これだけは果たさねば」と口先だけで、べんべんと言い暮らしているのか。
それを果たす大義も意志も手段もあるというのに…
見ろ、あの軍隊を、あの兵力、あの費用を。
率いるのは、繊細な若き王子、
神々しい野心に意気軒昂として、
一寸先は闇の計り知れぬ結果などには目もくれず

無常必滅の命の限りを
時の運、死、危険に向かって投げ出している。
それも、たかが卵の殻ほどの下らぬことに…いや、真の偉大さは
偉大な動機なしに行動するということにあるわけではない。
おのれの名誉がかかっているとなれば、藁しべ一本にも
闘争の大いなる種を見出す
ところにあるのだ。
(中略)
あれを見ろ、
名誉というとるにたらぬ幻想に欺かれるままに
塒(ねぐら)に急ぐがごとく墓場におもむくのを。
(中略)
ああ、今この時より心よ、血みどろの残忍になれ、
さもなければ、くたばってしまえ!
野島秀勝訳



「血みどろの残忍」
(^_^;;


テキストに関するおまけ

ハムレットの定本となる版は2つ
1604年クォート版(Q2)
1623年フォリオ版(F)
FはQ2をシェークスピア自身が改訂した可能性が高いとされ、
重視する学者が優位になった。
※四つ折り、と二つ折り→後ほど補足します


Folio


初版の Quarto 1(1603)は 初期の上演台本とされる



Oxford版「ハムレット」の編者はG.R.Hibbard



http://www.tabiken.com/history/doc/H/H211L100.HTM
新ケンブリッジ版Philip Edwardsアカデミックなスタンダード本
専門研究者用の『新ヴェリオーラム・シェークスピア全集』,
上演用の脚本として『アーデン版シェークスピア全集』,
として定評のある新改訂の『新ケンブリッジ版シェークスピア全集』