どこかで小さな声がした。
幼い子供の声だったかもしれない。シャガールの驢馬の声だったかもしれない。
空はどこから始まるのだろう? その声が問うように言った。
空はすぐ足もとから始まる。芝が答えた。すると樫がいった。
空は木々の枝ゝの先からはじまる。ギョギョシと啼きながら、オオヨシキリも言った。空は潟のうえにはじまると。
空は朝の光にはじまると朝は言い、空は中天にはじまると昼は言い、星々の生まれるところから空ははじまると、夜は言った。
風の吹くところから空ははじまる、と風は言った。
雲流れるところに空ははじまる、と雲は言う。空は無にはじまると、物思う人は言う。空は白紙にはじまる。筆もつ人は言った。空は山を描いてはじまる。絵筆を持つ人は言った。
自分の頭の上だよ、ハシブトガラスは囁いた。空は自分の頭の上からはじまるんだ。
虹だ。ふいに雨上がりの空から、声が降ってきた。
秘密を初めて打ち明ける幼い子どもの声のような、シャガールの驢馬の声のような、その声が言った。空ははじまるんだよ。空に虹の木が見えるところから。
虹の木があらわれると、みな立ちどまって、黙って、空を見上げた。その時初めて空を発見したみたいに。
長田 弘「虹の木」
(C)マルク・シャガールMarc Chagall ポンピドー・センター所蔵
「虹」(1967年) 160×170.5cm
「赤」の作品、というか、虹が白いとはなんということでしょう。
(でもよく見ると木の辺りに色がついています)
「虹の木」というのはこれで、ということで、作品引用・・・・
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南仏ニースのシャガール美術館旅行記byはるるさん
2012年12月18日(火)
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