五月の詩

五月の貴公子

萩原 朔太郎(1886-1942)56歳没

若草の上をあるいてゐるとき、
わたしの靴は白い足あとをのこしてゆく
ほそいすてつきの銀が草でみがかれ
まるめてぬいだ手ぶくろが宙でおどつて居る
ああすつぱりといつさいの憂愁をなげだして
わたしは柔和の羊になりたい
しつとりとした貴女あなたのくびに手をかけて
あたらしいあやめおしろいのにほひをかいで居たい
若くさの上をあるいてゐるとき
わたしは五月の貴公子である