六月の詩

  六月の雨

中原中也
昭和11年(1936年)「文学界」6月号


またひとしきり 午前の雨が
菖蒲(しょうぶ)のいろの みどりいろ
眼(まなこ)うるめる 面長(おもなが)き女(ひと)
たちあらわれて 消えてゆく

たちあらわれて 消えゆけば うれいに沈み しとしとと 畠(はたけ)の上に 落ちている
はてしもしれず 落ちている

       お太鼓(たいこ)叩(たた)いて 笛吹いて        あどけない子が 日曜日
       畳の上で 遊びます
       お太鼓叩いて 笛吹いて
       遊んでいれば 雨が降る
       櫺子(れんじ)の外に 雨が降る