六月の詩

  六月

茨木のり子

どこかに美しい村はないか
一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒
鍬を立てかけ 籠を置き
男も女も大きなジョッキをかたむける
どこかに美しい街はないか
食べられる実をつけた街路樹が
どこまでも続き すみれいろした夕暮は
若者のやさしいさざめきで満ち満ちる

どこかに美しい人と人との力はないか
同じ時代をともに生きる
したしさとおかしさとそうして怒りが
高い鼻に胸でも病んでいるらしい
鋭い力となって たちあらわれる

(第二詩集)『見えない配達夫』飯塚書店刊 1958年
(初出 1956年6月21日『朝日新聞』)



芳賀徹「六月のユートピア ー 茨木のり子の詩一篇」  (『みだれ髪の系譜』 芳賀徹著 講談社学術文庫)