七月の詩

 

七月は鉄砲百合

三好達治

七月は鉄砲百合
烏揚羽がゆらりと来て
遠い昔を思わせる

七月はまた立葵 色とりどりの
また葡萄棚 蔭も明るい
彼方の丘の松林 松の香りに蟬の鳴く

こんな明るい空のもと
昔の人はどこへいったか
忘れたふりはしているが

風だから声はやまぬか
来ただけはどこやらへゆく
その道の上 七月のまっ昼ま

まてしばし
烏揚羽がゆらりと来て
艶な喪服をひるがえす

 

夏の日の歌

中原中也

青い雲は動かない、

雲片一つあるでない。

  夏の真昼の静かには
  タールの光も清くなる。

夏の空には何かがある、

いぢらしく思はせる何かがある、

  焦げて図太い向日葵 が
  田舎の駅には咲いてゐる。

上手に子供を育てゆく、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
  山の近くを走る時。

山の近くを走りながら、

母親に似て汽車の汽笛は鳴る。

  夏の真昼の暑い時。

工藤直子「かまきり」

谷川俊太郎 「遠くへ」