ホメロス Homerus・・「イリアス」Iliad

憤りの一部始終を歌ってくれ、詩の女神よ、ぺ―レウスの子アキレウスの呪わしいその憤りこそ数知れぬ苦しみをアカイア勢に与え、またたくさんな雄々しい勇士らの魂を冥府へと送ってやったものである。
そして彼らの屍はといえば、野犬だの、猛禽類の餌食とされた。。
呉 茂一(くれ しげいち、1897- 1977)訳
「9年目」というのは参照した寺沢精哲監修の『歴史の名著』の年数だが.wikipediaでは「ギリシア神話を題材とし、トロイア戦争十年目のある日に生じたアキレウスの怒りから、イーリオスの英雄ヘクトールの葬儀までを描写する。』と10年目とある。(20250607閲覧)
全二四巻、一万五六九三行にも及ぶ壮大な
ギリシア最古の叙事詩である。
舞台はトロイア戦争で、この戦いは史実であることが遺跡発掘(シュリーマンによる)によって実証されたが、伝承では神々と人間が合い交える世界の物語として伝えられていた。
本書の冒頭では、主人公アキレスの怒りを記すところから始まる。
アキレスは、ギリシアの小国プティーアの王ベーレウスと海の二ンフであるテティスの息子である。
執筆当時の社会では、トロイア戦争は周知であったことから、九年目に起こった約五〇日間の出来事に焦点を当てている。
つまり、友人パトロクロスの仇討ちである。
さらに、
アキレスの過酷な運命や、敵方の老王が勇将(息子であり軍の要である)を失う物語が悲しみを増している。
アキレスとバトルクロスを結ぶ強い友情や、 各主人公の繊細な描写がなされ、ドラマチックな世界を鮮明に映し出す。
そして、希代の悲劇として、独立した物語の形をなす。
トロイア戦争も一〇年を迎えようとする頃、
ギリシア軍総大将アガメムノンは、味方アキレスの妾クリュセーイヌを奪う。アキレスは激しく怒り、戦場に立たないことを決める。
アキレスの母テティスは、我が子の自尊心を傷つけたアカイア人を後悔させ、息子に崇敬の念を表わすまで、トロイア方を優位にするようにゼウスに懇願する。
その望みは聞き入れられ、ギリシア方は窮地に陥る。
アガメムノンは、武勇に優れたアキレスに使者を送るが、彼の怒りはおさまらない。
戦況をみかねたアキレスの無二の友パトロクロスは、アキレスの武具をつけて戦場に赴く。
しかし、トロイア王プリアモスの息子で 勇将と謳われたヘクトルに討たれ、命を落とす。アキレスは親友を失った上、武具も奪われた悲しみと怒りに襲われる。
また、自らのかたくなな態度が親友の死を招いたという後悔の念から、彼は再び戦闘に加わる。
アキレスの運命は、名を残すことなく平穏
無事に暮らすか、後世に名を残す偉業をなし遂げ、短命な一生を遂げるかに決まっていた。
つまり、親友の敵を討つことは、アキレス自身の死が近いことを意味していた。
アキレスは、自分の死を覚悟の上で、戦線に復帰。復讐は見事になし遂げられる。
ヘクトルを失ったトロイアの命運は、もはや尽きていた。
悲しみと屈辱に打ちひしがれる老王プリアモスが、アキレスの陣営に息子の遺体を受け取りに訪れた。アキレスは憐憫の情を禁じえない。
こうしてアキレスの勝利の物語は、悲しみに包まれて終わりを告げるのである。
寺沢 精哲(てらさわ あきよし 1933- )まとめ