アフロディテ Aphrodite


アフロディテはギリシアの女神だが、『イメージシンボル事典』の付録の「神話―その系譜図」(p714‐715)に載っていない。傑作美術に登場するゆえに、もっと重要な女神だと思っていたのだが、違うようだ。 本文の項目でも、「さまざまな姿を取って表れる豊饒の女神だが、もっていた能力をヘラやデメテルに分与しなければならなくなり、最上の位置を失った」とある。

もと東方の「月―海―多産の三位一体」のGreat goddesで、ギリシア神話でも、オリンポス十二神の一柱に数えられるが、「終わりのある愛の象徴」で、余り名誉でない物語をもつようだ。
『神の文化史事典』(松村一男編白水社2013)でのキ-ワードは、性愛・美・浮気であった。

Ludovisi throne Altemps Inv8570
so-called “Ludovisi Throne”: main panel,
Aphrodite attended by two handmaidens
as she rises ouf the surf.
Thasos marble, Greek artwork, ca. 460 BC

ローマ国立美術館蔵


アフロディテ

水谷 智洋(平凡社世界大百科事典)


アフロディテ Aphrodit

ギリシア神話の恋愛と美の女神。ローマ神話のウェヌスVenus (英語読みでビーナス) にあたる。
ホメロスによれば,ゼウスとディオネ の娘。しかしヘシオドスの《神統記》によれば,ゼウスの父神クロノスがその父ウラノス (天) の陽物を切断して海に投じたとき,まわりにわいた泡 (アフロス) から生まれたのがこの女神であるという。
オリュンポス神の列に加えられてから,彼女は鍛冶の神ヘファイストスの妻となったが,軍神アレスと情を通じて愛神エロス,テーバイの建設者カドモスの妻となったハルモニア等を生んだ

ヘラ,アテナ両女神と最も美しい女神の誉れを争ったときには,審判に選ばれたトロイアの王子パリスに美女ヘレネとの結婚を約束して勝利をおさめ,トロイア戦争の遠因をつくった。彼女はまたトロイア王家の一員アンキセスを見初め,ローマ建国の祖アエネアスの母となったほか,美青年アドニスを寵愛した話でもよく知られる。(アドニスの血からアネモネの花を作る)

もともと彼女はセム系の豊穣 (ほうじよう) 多産の女神アスタルテに起源が求められる神格で,ギリシアへはミュケナイ時代にキプロス島を経由して入ったと考えられる。

海に生まれてから,まずキプロス島またはキュテラ島 (ペロポネソス半島南端に近い小島) に上陸したという伝承は,彼女の東方からの伝来の記憶をとどめるものであり,豊穣神としての性格はアドニスとの関係に認められる。またアレスとの結びつきは,アスタルテがあわせもつ戦闘神の性格のなごりであろう。崇拝の中心地はキプロス島,キュテラ島,および彼女が売黒の女神としてまつられていたコリントスが名高い。

Praxiteles, Aphrodite of Knidos, 350 BC, Plaster cast, Hostinné, 188460
美術では,プラクシテレス作の《クニドスのアフロディテ》 (前 350 ころ) が古代に最も高い評価を得た彫刻であったが,ローマ時代の模刻しか伝わらない。 1820 年にメロス島で発見されたアフロディテ像《ミロのビーナス》は,ヘレニズム期の傑作としてあまりにも有名。 ⇒ヴィーナス

ローマ神話でウェヌス(ヴィーナス)に対応されているが、「女性の美しさを表現する際の比喩として用いられたり、愛神の代名詞としても用いられ」るのは、「ヴィーナス」が一般的だ。
最後にヘルメスとアフロディテの息子とされる、 Hermaphrodite (オピディウス『転身物語』4306~)を挙げておく。

Hermaphroditus lady lever
Lady Lever Art Gallery
蔵(イギリス)
Hermaphroditus, the "son" of the Greek god Hermes and the goddess Aphrodite,
origin of the word "hermaphrodite".(雌雄同体の語源)

『神の文化史事典』(松村一男編白水社2013)での
ウエヌス(ヴィーナス)のキーワードは 農耕、美、愛
それに対する アフロディテは、性愛・美・浮気で、気の毒である!?
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