目隠しをした正義の女神像が製作されるようになったのは法の平等の理念が生じた16世紀頃以降で、
19世紀頃より目隠しをした像が主流になる
目隠し=彼女が前に立つ者の顔を見ないことを示し、法は貧富や権力の有無に関わらず、万人に等しく適用される「法の下の平等」の法理念を表す。((wikipedia)
正義の女神(せいぎのめがみ)
ギリシア神話の女神、テミス(Θέμις)
ローマ神話の女神、ユースティティア(Jūstitia)
司法における法と正義の象徴として像に表現されるのは、テミスではなくローマ神話のユースティティア →(en.wikipedia)Lady_Justice→ジャスティス
✳ジャスティス(justice)は、正義を意味する英語。
↑トガを着ている意味についての言及があった・・([信頼されない情報源]とあるが、グレコローマン衣服にある哲学的姿勢?を示す?)
(✳)2017年公開のアメリカ合衆国のスーパーヒーロー映画
天秤
1.正義を表し、支配者が手に持つと権力を、ネメシスが手に持つと復讐を意味する。
2.飢饉や不足を表し、食料の分配を象徴する。『黙示録』においてきし(horseman)は、「飢餓」Starvationを表し、天秤を持っている。
3.エジプトでは市を意味する。
4.《十二宮》 天秤宮
5.→scales(頁下に補記)
『イメージ・シンボル事典』(ド・フリース)p43
平凡社大百科事典第2版1988の解 by 荒俣宏
【象徴】
はかりは古代より〈裁き〉と〈正義〉の象徴とされ,また犯した悪業に見合う罰を定める機能により〈復讐〉の意味をも含む。したがってこれらをつかさどる神々、たとえばエジプトのオシリス,トート,マアト,ギリシアのテミス等は、はかりを持物とする。
黄道十二宮の天秤宮は、秋分のころ太陽がこの宮に入るので、、均衡状態を表象するものとして名付けられた。
ギリシアでは、天秤の片方に置かれた[善]はどんなに小さくても[悪]より重いと信じられ、
ローマ時代には天秤と剣を組み合わせた[裁き]の寓意図が定着 した。
神話においては運命を予言する隠喩に使われており
ギリシア神話においては、アキレウスとメムノンの一騎打ちに際してゼウスが2人の運命をてんびんにかけ、重さを測った話がある。
その時メムノンの側が下がり、彼はアキレウスに滅ぼされた。
キリスト教では、天使ミカエルが魂の重さを測るてんびんを持ち、
また「ヨハネの黙示録」6章に語られる4騎士のうち3頭目の馬車に乗る[飢饉]は、手に[裁き]のてんびんを持つ。*補→
天使ミカエルの頁へ
イスラム教では大天使ガブリエル(ジブリール)が〔最後の審判〕の日にてんびんで人間の善業と悪業を秤量し悪業が勝(すぐ)ればジャハンナム (聖書の[ゲヘナ]に由来する語で[地獄]の意)に落とすとコーランにある。
重量を測ることを裁きの手段とする考えは中世に至って強化され、魔女裁判の中で猛威を振るった 鉄で装丁した教会備え付けの聖書を一方の重りとしたてんびんで被疑者を測り、はかりがどう動こうと判定人の勝手な解釈により有罪を宣することがしばしばあった。
正義の女神は、秤の他に剣ももつ・・
剣は神の義の象徴という。(『キリスト教シンボル事典』ミシェル・フイエ著武藤剛史訳白水社2006)
イエス:わたしが来たのは地上に平和をもたらすためだと思ってはならない。平和ではなく、剣をもたらすために来たのだ。(マタイによる福音書10:34)
四枢要徳の正義一つである正義の寓意像は、剣と秤を持つ。剣は光のシンボルである。その刃は太陽に煌めく。
剣はまた、神の言葉のシンボルである。
「黙示録」では、白馬の騎士が自分の口から出ている剣で異教の民を打ち倒すが、この舌の代わりをする剣はロゴスすなわち神の言葉の表象に他ならない。(
(『キリスト教シンボル事典』)
人間の裁判では、剣は象徴として用いられるばかりでなく、実際にも使われる。
以前、天保山・大阪文化館で「魔女の秘密」展で
魔女狩り、拷問器具を見たことがあった(2015年4月22日)
そのとき、死刑執行人の剣を見、
『不思議な薬草箱 魔女・グリム・伝説・聖書』西村 佑子著( 山と渓谷社 2014)について別「コンテンツgreenbookにまとめていた。
《フランケンタールの斬首用剣》 / 《死刑執行用の剣(銘「われここで悪を罰する」)》
✳
インターネットミュージアム
15世紀、ドイツ
Wan Ich Das Schwert thue Auffheben So Wünsche
Ich Dem Sünder Das Ewige Leben
「この剣を振り上げし時、我は科人に永久の生を祈らん」と彫られている、実際に使われた剣・・
この図像はゴンブリッチの「美術の歴史」の第2章の 永遠のための美術(ART FOR ETERNITY)の8つ目の図38としても挙げられている。
The jackal-faced god Anubis supervising the weighing of a dead man's heart,while the ibis-headed messenger-god Thoth on the right records the result ,c.1285 BC
平凡社大百科事典第2版1988の図 by 荒俣宏
(第22卷‐p411の図)
エジプトの死者の書に描かれた[魂の計量]
死者の心臓はホルス神によって、女神マアトの真実の羽と重さを比べられる
秤のそばには、生前に不正をした人間の魂を食べようと待ち構える怪物と
結果を記録するトート神が描かれる
第21王朝 前11~10世紀 ライデン 王立古代美術館蔵
「図説古代エジプトシンボル事典」原書房2002
byリチャード・H・ウィルキンソン著 近藤二郎監修
羽の重さと心臓の重さを比べられたら、全員地獄?・・→霊魂の重さとの比較、真実の告白
「図説エジプトの死者の書」河出書房新社ふくろうの本
村上笙子他著 p88の図 (2002)
真理の羽根を戴く二人の女神、オシリスへの礼拝、心臓の計量、トトによる結果の記録の図
オシリス神の「裁判の間}=二つの真理の間(ま)(死者のための裁判の間)
「二つの真理」は古代エジプト語の「マアト」から派生した言葉 で「完全な真理」を意味 した
オシリス神との対面 、 罪の否定告白(42項目)
罪の否定告白が正しいかどうか」を測る
(*あとで『神話・伝承事典』から21項挙げる)
オシリスが死者の神となるまでは、アヌビスが死者の神だった
アヌビスは砂漠の端にある墓地に現われ、古くから墓地と結びつけられ イヌ科の動物の姿であらわされていた。
早い時期にオシリス信仰に吸収され、伝説では女神イシスの夫オシリスの遺体を包んだのはアヌビスだとされている。
ミイラ職人の守護神であり、死者の世界でオシリスに次ぐ地位にある。
(「古代エジプトシンボル事典」
p76)
ワニとライオンとカバの合成怪物
ここで、余談だが、このWikipediaにあるMaat マアトの図だが(20180125参照)この図は、
この古代エジプトの女神にあまりふさわしいものではないようにみえるのだが、どうだろうか。
その理由は ヒエログリフが座る女神の形であるからだ
膝を立てて座り、ダチョウの羽をつけているのがマアトのヒエログリフである。
エジプトにおいてすわるポーズは、尊敬される人物としての地位を示す。
冥界の審判で裁判官を務める神々は伝統的に座った姿で描かれる。
エジプト美術には厳格な定型ルールがあり、すべての制作物がそれに従うということは、ゴンブリッチも書いている。
The Egyptian style comprised a set of very strict laws,which every artist had to learn from his earlliest youth.
また ヒエログリフを学んでそのイメージとシンボルを明確に 刻まねばならなかったと。
Every artist also had to learn the art of beautiful script.
He had to cut the images and symbols of the hieroglyphs clearly and accurately in stone.
バーバラ・ウォーカーの「神話・伝承事典」にある図でも
立っている。・・ 逆にここからWikipediaにもこの種のマートの図が挙げられたのかも?
バーバラ・ウォーカーは面白いのだが、フェミニズムはよくわからない。
アメリカのテレビドラマ、「トランスパペアレントtransparent」(2015アマゾンオリジナル)でフェミニズムの大学教授がレズビアンとして描かれていたが、これ、ちょっとひどい・・閑話休題
バーバラ・ウォーカー
「神話・伝承事典―失われた女神たちの復権」
("The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets")(p456の図)
山下主一郎主幹 大修館書店1998
マートという名は印欧諸語に共通する「母親」の意の音節(マー)に由来しており、元来は単に「母親」という意味だったのである。
彼女のシンボルは冥界のマートの「法廷」で各人の心臓―霊魂(アブ)を計量するときに、分銅代わりに用いられたあの1本の羽だった。このことから、「マートの羽」そのものが真理を表す象形文字となったのである。
この羽は他の女神たち、イシスなども身につけていた。
三界は「天界の女神、地上の王妃、冥界の女王」というマートの三相によって統治されていた。
語源が同じだといい、いろいろ展開されていたが、 「古代エジプトシンボル事典」の方には以下の語源の話 が・・(座る台座)
マアトを表すもう一つの記号に、定規に似た細長い形のヒエログリフがある(Aa11)
このヒエログリフがあらわす「まっすぐである」という概念は、文字通りに「柄、槍、棒、茎、光線」などを意味するマウト(maut)という語に、
また比喩的な意味では真実の、正義の、正しいといった意味をもつマア(maa)という語に見ることができる。そのようなわけでこのヒエログリフは絵画や彫刻で神々が座る台座になっているのである。
「マアトの三相による統治」というのが、 バーバラ・ウォーカーの キモであったかな・・・
ステファヌ・ロッシーニの「エジプトの神々事典の方には
「ダチョウの羽は災いをもたらすとみなされ、セトにささげられた。しかしながらその羽毛はくつかの神(シュウ、マアート、オシリス)の持ち物であり、儀式用の扇であるフラベルヌの材料となった」。
(以下、バーバラ・ウォーカの引用続き)
マートは古代エジプトの立法者だったという点で、バビロニアの初代の王に「天命の書板」をあたえたティヤマートTiamatと同格の女神だった。
エジプト人は、自分がマートの行動規則にきちんと従ったことを示すため、マートとトート(あるいはアヌビス)の面前で、あの有名な「否定告白」を唱えることになっていた
「図説古代エジプトシンボル事典」原書房
byリチャード・H・ウィルキンソン著 (p35の図)
心臓を計量する場面(アンクウアフィブラーのパピルスの挿絵、末期王朝時代):
死者の裁判の秤の上のマアト神
Egyptian statuette of a kneeling man, maybe a priest, offering a small Maat figure. Bronze with agemina, unknown provenience, Third Intermediate Period/Late Period. Archeological Museum of Bologna (Italy).
ステファヌ・ロッシーニの「エジプトの神々事典」(河出書房新社1997)では立っている神が多い印象があったが、マアト神は座っている(イラストもステファヌ・ロッシーニが書いたもの)
見たところ、アモン・アナト・アトン・ハトホル・ヘフ・ヘケト・幼児ホルス・イシス・ヘプリ・ムト・ヌト・セフメト・ラー・セルキス・ソカリス・ティトエス・テヌフトなど主要な神々は座る神の図像であった
プタハの図像では、大多数は「マアトの台座の上に立っている姿が多い」(p146)
オシリスは立っていたり座っていたりして、
悪役のセトは立っている
猫頭女神のバステトも立っており、女性書記のセシャトも立っている・・・彼女らはビジネスウーマンなのか?等々
立つ正義の女神は、エジプトでなく、ヨーロッパのジャスティスの女神の歴史伝統から 違和感なく 載せられてしまっているものかもしれない。
https://synchromiss.wordpress.com/2015/10/03/
The Balancing Scales of Libra
http://maatlaws.blogspot.jp/2010/06/The 42 Laws of Maat
(平凡社大百科事典第2版1988の図 其の3
by荒俣宏)
(第22卷‐p411)
ジョット 美徳のメダイオンから「正義」
14世紀 サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂鐘楼@フィレンツェ
Campanile di Giotto(1334)
(平凡社大百科事典第2版1988の解by桂木隆夫)
人間の行為を、正しい、正しくないという判断するための基準
有名な古典的定義(ローマ法学者 ウルピアヌス)
「各人に彼のものを与えんとする恒常的意思
」
源はアリストテレスの
正義とは均等的である(価値に相応の)
犯罪における矯正的正義
正義とは時代と社会が異なるにしたがって異なるもの(相対主義)
正義の概念は法と不可分
ギリシア語 法:ディケ 正義:ディカィオシュネは密接に結びついていた
今日もジャスティスjusticeは正義という意味のみでなく、司法・裁判所の意味を有している。
正義論の対立
1.「必要に迫られての人為の産物」=必要最小限の正義
ホップス:人間は言語によって本能の秩序から切り離されており
自己欺瞞的自尊心vain-gloryによって相互不信の状態に陥らざるを得ない(自然状態においては戦争状態)→契約によって国家=正義を作り出した
2.「理性という超越的能力によって創出すべき調和状態」=普遍的正義
プラトン:正義=善のイデア=経験を超えたところに存在する超越的概念
3.競争という行為枠組みの中で正・不正が問題になる
D.ヒューム、A.スミス:言語使用により本能の秩序を失った代わりに競争の秩序convention、社会的信頼関係reasonable expeecrationを形成しうる
西洋古典学辞典(京都大学学術出版会2010)(p802)
by松原國師(Amazon)第5回ゲスナー賞(書誌学)
(「 正義・秩序」の意)
慣習として定まっている「掟」を擬人化した女神
天空と大地の娘
兄弟のイーアペトスと交わり プロメテウスを産む
ゼウス(甥)の2番目の配偶者となって、ホーライ(季節)やモイライ(運命)
アストライアー(正義)、エイレーネ―(平和) エーリダノスのニンフ、ヘスペリデスを産む。
ティーターン神族中、唯一オリュンポスにあってゼウスの助言者という高い地位を保つ。
ガイア(大地)を継いでデルポイの神託所を有し、アポッローンに予言術を授けた。
ギガントマキアでは雌山羊アマルティアの皮をアイビスとして使用するようにゼウスに勧めた
等
西洋古典学辞典(京都大学学術出版会2010)(p763)
「正義」を擬人化した女神
ホーライの一人で、ゼウスとテミスの娘
黄金時代には人間とともに住んでいたが、人類が堕落しその悪が大となるにつれて、やむなく天上に戻り「乙女座Virgo」となった
アストライアー(Astraia 星乙女)とも呼ばれ、ローマのユースティティアに相当する
彼女は人間の正義を支配し、母のテミスは神の正義を支配した
She ruled over human justice, while her mother Themis ruled over divine justice. Her opposite was adikia ("injustice")
ローマの「正義」の女神
天秤と剣を手にした姿であらわされた
「貞潔」の女神プーディキティアはPudicitiaは彼女の姉妹とみなされている
人類を見守り、人類が不正を働いた時にはこれをゼウスに訴えるという。 後世の神話の女神アストライアーやローマ神話のユースティティアと同一視される。
(世界大百科事典内のHōraの言及コトバンク) から
ギリシア神話の季節の女神たち。単数ではホーラHōraといい,英語
hour(〈時間〉)の語源
ヘシオドスの《神統記》によれば,ゼウスとテミス(〈掟〉)を両親とするエウノミアEunomia(〈秩序〉),ディケDikē(〈正義〉),エイレネEirēnē(〈平和〉)の3女神とされるが,一般には季節の移り変りとともに訪れて,植物を生長させ,花を咲かせる女神たちと考えられ,アッティカ地方ではアウクソAuxō(〈成長〉),タロThallō(〈花盛り〉),カルポKarpō(〈実り〉)と呼ばれた
[神話・伝承辞典]大修館書店1988
バーバラ・ウォーカー著 山下主一郎主幹 (p782)
なるほど面白い、しかし・・バーバラ・ウォーカーの説は判断停止中((笑))
http://www.theoi.com/Titan/TitanisThemis.html
THEMIS GODDESS OF DIVINE LAW
テミス―神の法と秩序のタイタンの女神
NEXT:Prudentia (美徳の象徴)
『図説世界シンボル事典』の「ネメシス」の項を見ると、秤を持っている(ことがある)と書かれていたが、Wikimediaに、正義の女神とネメシス(右)が殺人犯を追いかけているという絵があった。
ピエール・ポール・プルドン (1758–1823)ルーブル蔵
Justice (Dike, on the left) and Divine Vengeance (Nemesis, right)
→ネメシスを見る。
他に、→女神ではないが、「最後の審判」で神の代理として、魂を導きその重さを図るキリスト教の大天使ミカエルも見ておきます。
『イメージ・シンボル事典』(ド・フリース) scakesの項には、2つの左右対称の皿を持つ秤は、双頭斧や生命の木と同様のシンボルを持つとあり。(p549)
→別項とする、(途中)
次のの擬人像→Prudentia (美徳の象徴)